アンテナオムリエ。

 8月22日、松本の里山辺にあるブックパッカーのアンテナサイトにて、「こどもとおとなの自分で育つ話」と題したお話会が開催されました。

 ゲストは、国際モンテッソーリ協会の公認教師、深津高子さん、そして不詳オムリエことぼく。

 お話会を企画して場を作ったのは、ブックパッカー主催のウチダゴウさん。ぼくとは、自然育児友の会の内田さんを介して知り合ったのです。

 まずは、ブックパッカーから説明した方がいいように思います。

 ブックパッカーを一言で言うと「本を通して人と人がつながる」試み。ぼくも一度参加しました。みなが本を持ち寄って、紹介し合う。それだけなのに「本好き」ってだけで、とても親近感が沸いて、話が楽しく、初対面にもかかわらずみなで終了後もお酒を飲んだりした、刺激的でありつつものんびりしたひとときでした。

 そのアンテナサイトはいわば「オーダーメイドの貸本屋」。店内には、本は目に見えるところには置いてありません。店主のウチダさんが、お客さんのお話を聞いて、やおら奥の書棚からおすすめの本を持ってくる。お客は気に入れば借りるし、別のがいいと思えば、また、ウチダさんが本を探す。そんなシステムなんです。

 この形態、昔のやり方を守っている、お店とおんなじだなあと思いました。例えば、ぼくがお話を聞きによく伺う大工道具屋さん。ここもお店には商品が並んでいません。お客がどういう道具を何に使うために買いにきたかを聞いてから、奥へ行って商品を持ってきます。あるいは先日取材をさせていただいた足袋屋さん。ここは最初に訪れると、30カ所ものチェックポイントを持ってお客さんの足型を取って、足袋を作ります。二回目以降はその「お預かりした」足型を元に、足袋を作っていくんです。

 現在は、商品がたくさん並んでいる店構えが当たり前になっていますが、昔は、こんな感じの、誂え、つまりオーダーメイドが当たり前だったようなのです。

 そういったやり方を守る人たちの矜持は「お客に商品選択をゆだねない」ということ。同じ種類の商品が安いものから高いものまであれもこれも並んでいるのは、一見親切です。でも、本当の親切とは、そのお店がいいと思うものだけを紹介すること。時間や会話を積み重ねて、お店の思いを込めた「あなた」に合うたったひとつの品物を提供する。そこに価値があると考えているんです。

 その形態を「貸本」というジャンルで始めたウチダさん。話を聞いてみると、何時間もゆっくり話していくお客が多いのだそう。1回3冊まで貸し出し、一律500円という値段設定は、本というハードではなく、お客のオーダーに応える店主の「人力」への対価と考えるといいでしょう。

 もちろん、例えば新刊書店のように、たくさんある中から、自分で選ぶヨロコビもあります。でも、時には、自分のことを考えて「誂えてもらった」一冊を読む幸福だって味わってみたいように思います。

 なんだかピンと張りつめた空気が流れているような紹介ですが、アンテナサイトの中には、ゆったりした時間が流れているようです。こういうタイプのお店は、店主の人となりが良く出るので、ここいらはウチダさんの持つ空気感でもあると思います。

 そんな場で開催されたお話会。当然のごとく、話し手が一方向でしゃべるのではなくて、皆で顔を合わせて、語る、という形式でやりましょう、ということで、開催されました。

 そこで2時間とその後の幾ばくかの時間、聞いたり、話したり、聞いたり、話したり、聞いたり、で、本当にたくさんのお話が飛び交いました。子どもと過ごすことで生まれて来たいろんな思いやものごとを語り合いたい、そんなごくシンプルでまっすぐな思いが場に満ちていました。オムリエ座談会とはちょっと違う人の層でしたが、根本のところでは、まるで異なることないのが楽しく、ふふふ、と心の中で笑ったりしていました。

 で、ここまで前振りしといてなんなんですが、そのときの話などは、ウチダさんが、自然育児友の会の会報に寄稿するそうです。ので、えーと、お楽しみに。

 ぼく自身は、深津さんをはじめ、大勢の方々と時間を過ごし、お話ができたこと。そして、今ここに子どもたちとともにいることについて、少し、しんとした気持ちで考えることができたこと、そして、うちの子ら(はい、ツマと子らもお伺いして、お泊まりもさせていただいてきたのです)を、みんなが、真っ正面から、見て、うけとめてくれたこと。そんなことが嬉しかったのです。

 心の奥底から気にかけてくれる人がいて、はじめて子どもは、心から笑い、ものごとに打ち込める。「弱者」である子どもを見守る人が、ひとりでもいるように、そして、願わくば、ひとりでも多くいるように。平和は子どもから始まるのだから。そんな深津さんのメッセージがぼくのなかに残っています。ウタやイノジとともに過ごしてくれた皆さんに、静かに感謝。そして、このような場を作ったウチダさんに感嘆しつつ、呼んでいただいて感謝、です。

 ちなみに「これとかどうですか」とゴウさんがふらりと持って来た漆塗り職人の自伝。借りて来て、ふむふむ読んでいる最中です。

 詩人ゴーサンの公式ウエブサイト http://www.oo53.com/
 深津高子さんのサイト「ecollage」 http://ecollage.info/