オムリエソング。

 多分多くのお子さんのいる家庭には、子供をあやしたり一緒に遊んでいる間にできた、オリジナルの歌ってのがあるんだと思います。

 ワタクシどもの家庭にも「ぞうさん」「きらきら星」「阿波踊り(踊るアホウに見るアホウっていうやつね)」などなどの歌に加え、冬はダム工事の出稼ぎ、春から秋は床屋を行なう勤勉なビーバーをうたいあげた「びびびびビーバー」などのオリジナルがレパートリーとして加わっています。

 そんな中、ムスメ(1歳7ヶ月)が最近気に入っているオリジナルソングは、ワカメ(食べ物のね)を好いて好いてやまないムスメをたたえるべく作られた、その名も「ワカメの歌」。

 ワタクシが海にたゆたうワカメになりきって手足を揺らして
「わーかーめ、わーかーめ、ゆーらゆらー、おふろでゆーらゆら、おなべでふーらふら」
 と海の底から湧き上がるような無気味な低音で歌うと、ムスメは手を上にあげてぐるぐるぐるぐるまわり出します。多分彼女の中ではそれがワカメなんでしょう。

 自分で作っておいてなんなんですが、このワカメの歌、大変気持ちが沈む暗いメロディーなので、1回歌って次は「ちょうちょ」とかを歌って楽しんでいただこうとすると、ムスメは首をぶんぶんふって「あかめ、あっかい」と人さし指をたてます。これは「ワカメ(の歌)、もう1回」の意で、ワタクシはムスメのリクエストに応え、ワカメの真似して歌い、娘もぐるぐる回り、結局それが5セットくらい続きます。

 ミック・ジャガーが「来る日も来る日も何十年もサティスファクションうたってきて、つくづく気がめいるっちゅうねん正味の話」という意味のことを発言していたような気がするのですが、確かにスターってのは、自分はうんざりしてるのに、観客にせがまれ、御機嫌なナンバーをどのライブでもうたう宿命にある。

 ワタクシもまた自分が好きとか嫌いとかじゃなくて、ムスメが気に入る歌をうたい続ける、という点において、ミックと重なります。確かに最初はムスメが気に入ってくれて嬉しかった。ヒットソングを作り得た自分が誇らしかった。でも、もう飽きた、でも、うたわなきゃならない。

 ま、ワカメの歌と同じ土俵にあげられたミックとかキースとかはたまったもんじゃないでしょうが、ワタクシ、この年になって、やっとミックの気持ちちょっと判るようになりました。ムスメのおかげです。

 さて、今日も今日とて、お気に入りのご機嫌なナンバーを聞くと、ムスメはちゃぶ台に手をついてメロディーに合わせて屈伸運動をはじめます。真剣な顔ではじめてそのうち、あはあと笑い出す。

 ムスメにとっては、音楽はとっても楽しいものみたいです。

 そんな思いがひしひしと伝わってくるダンス。それを見ていると、嬉しくなってきて、よしここで一丁うたったるど、と満を持して「わーかーめー」とおどろおどろしく声を絞り出すのですが、もう彼女の中ではブームは終わっているらしく、「あかめ、ばいばい」と首ぶんぶん振られ「じょーちゃん(ぞうさんの意)」をうたえ、と指示されます。やっぱりミックへの道ははるか遠いようです。