食育オムリエ。

 ワタクシ、料理をすることは、決して好きではありません。しかし、人のためにゴハンを作ることは嫌いじゃないようです。

 一人暮らしの頃、自炊ということをほとんどしなかったにも関わらず、現在のツマとなる女性と同居を始めたとたん、料理を張り切ってするようになり、現在も、わりと台所に立つことが多い。それでもツマとムスメが実家に行っていたりすると、そこらへんの弁当を買ってきて十分満足しております。自分のためだけに料理する、ということに興味がなかなか持てない。

 それはさておき、総合的な男性による育児を追求するNOK公認のオムリエとしては、やはり料理。の項目も大事です。

 ワタクシ、食材を切るさい、出来るだけ、ちゃぶだいの上にまな板を置いて行なうようにしています。1歳7カ月のムスメに包丁を持たせるのはさすがに早すぎますが、ムスメに刃物の使い方くらい見せておいた方がいいだろうと思ってのことです。台所に立つと、ムスメには手元が見えないのです。

 ワタクシの思惑通り、ムスメはじーとワタクシの手元を見ている。そしてやおら(買い与えておいた)ママゴトセットを取り出して、それまで手に持っていた塩センベイなんかをママゴトまな板の上に置いて、ママゴト包丁で切ろうとする。

 まさに食育。藤野ナニガシもご照覧あれってな具合です。

 と、得意満面鼻歌まじりにハクサイなんぞを切っていると、いきなりムスメが泣き出す。見ると、塩センベイを押さえていた手で目をこすり、塩が目に入って痛がっている。こうなると食育も何もあったもんじゃなく、濡れタオルでムスメの顔を拭いてやり「かあちゃーあっこおっぱー」すなわちかあさん抱っこ(して)おっぱい(飲ませて)と叫びだすのをあやし、どさくさにまぎれて大をした布オムツを取り替えるオムリエ本来の業務を行ない、手を洗い、と一連の作業が終わると、いつの間にかムスメは寝て、ゴハンを作る気もなくなって、ツマとヨウカンをしんみり食べたりするはめになります。

 それでもやっぱりゴハン作りは楽しい、と思える時が多い。

 食材を切っているとき、ジマンのカツブシ削りでカツブシをかいているとき、こちらがとんとん、かっしゅかっしゅとリズミカルにやると、ムスメはそれに合わせて、体を揺らして、えへへと笑い「まなー(おいしいものの総称)」と合いの手を入れます。

 こっちも嬉しくなって、とんとん、かっしゅかっしゅとさらに続けると、ステップを踏み、そして、手を振り上げおーおーと叫びながらこちらに寄ってくる。

 映画「ダンサーインザダーク」の、工場でビョーク姉さんがキテレツで崇高で切ないダンスと歌を披露する場面がワタクシ大好きなんですが、カツブシかきのリズムに合わせて踊るムスメを見ていると、体温が伝わってくるあったかいミュージカルを見ているような気分になります。親ばかでしょうか。親ばかですね。

 親ばかついでに、ムスメに望むことと言えば、ゴハンをおいしくたくさん食べるヒトになってほしいし、そういうムスメを好いてくれる(もしくは面白がってくれる)オトコをつかまえなさい、ということです。

 やっぱり一緒においしいものをおんなじように、そしてできれば一緒に作って食べるのが、一番楽しいと思うからです。