オムリエはパシリだ。

 ムスメとスーパーへ買い物へ行くのがわりと好きです。

 近所のスーパーは最近改装をして、通路のスペースが大変広くなりました。そこをムスメは、子供用のカートを押して、我がもの顔に歩き回ります。

 野菜のコーナーを歩くと、さやいんげんだとか芽キャベツだとか、ムスメの目線にある野菜を手に取り、ふむふむとうなずき、気に入ったとなるとカートのなかに放り込みます。さらにがらがらとカートを押し、人にぶつかりそうになるので、ワタクシがハンドル部分を持つと、物凄くいやそうにその手を払いのけ「じぶん」すなわち自分でやる、とキゼンと宣言するのです。

 それをごまかしつつどうにか真直ぐ進むと今度はトウフのコーナーに立ち止まり、ひとつひとつ手に取りなぜか指で押したりしてギンミを始める。しかし、本日はトウフ気分ではないらしくそのまま戻し、反対側のナットウを見つけ「あっとあっと!(ナットウナットウ!の意)」と手に取ります。しかしそれも気に喰わないらしく、隣にある安売りでもない良質な素材を使っているわけでもないただ単にヘンテコなナットウをカートに入れ満足げにそこを去ります。基準はどこにあるのか、と考えているワタクシをしり目に今度は「ととー(おととすなわち魚の意)」と歓声を上げ、塩ジャケに駆け寄り、ビニール袋をむしり取って中に手づかみで入れようとする。ワタクシは慌てて駆け寄って塩ジャケを取って袋に入れるとまた「じぶんじぶん」とムスメがのたまうので、袋を渡してやると、厳かにカートの中に入れる。

 確かにワタクシは塩ジャケが大好きだし、トウフもナットウも好物です。しかしこれじゃワタクシどもの食卓があまりと言ってはあまりに清貧、あるいはずばりビンボくさいことが道行く人々に丸わかりではないか。そう考え、タイの刺身などを吟味するふりをするワタクシはまたムスメにおいてけぼりにされ、気づくとムスメはチョコレートのコーナーで、ある銘柄のチョコを取って「かあちゃ」と鼻の穴をおっぴろげて仁王立ちしている。

 ワタクシのツマすなわちかあちゃんは、チョコレートを好いて好いてやまないことをムスメは熟知しており、しかも前にワタクシとふたりでおつかいに行った時にオミヤゲに買って喜んでもらえたチョコの銘柄をちゃんと覚えているのです。かあちゃんに見せといで、と言うと、ようやくダイコンやらニンジンやらを抱えてふうふう言って追い付いてきたツマに高々とチョコを差し上げて突進して行きます。

 母性のあらわれか母親を真似する楽しさか、理由は何にせよ、カートを押してえっちらおっちら前に進むムスメはすごく楽しそうで、すごく輝いています。自分が、何か重要な役割をになっているというホコリを感じているんだろうなあ、と思います。よく行く八百屋さんは狭くカートもないので、ムスメはもっぱら店員さんに話し掛けたり「おぶ」すなわち麩菓子を買ってくれなどとねだっているだけです。それがこのスーパーでは、一生懸命、まさに汗をかきかき仕事をしています。このスーパーは(いいところもあるけど)商品と店員が根拠なくお高く澄ましている傾向があり、ワタクシどもは必ずしも好きなところではないのですが、そのビジネスライクなところが、むしろムスメの「おしごとモード」に火をつけているのかもしれません。

 このスーパー行脚。最後のレジ待ちがネックとなります。レジの順番を待つ、という概念がないムスメは、すぐに飽きて、レジ前の商品を漁り、投げ捨てる。中でも、ひと切れパウンドケーキシリーズがちょうど投げやすいらしく、ワタクシどもが目を離したすきにとっては投げとっては投げをはじめる。御存じのとおり、パウンドケーキというものはもろく、すぐにふたつに割れてしまう。レジの人の目の前ということもあり、割れたら買わざるを得ない。ワタクシはもう何度か、たったふた口で食べられるくせに強気な値段のそのスーパーオリジナルのケーキを購入し食べております。これでもう一切れシャケ買えたなあなどと思いながら。


 先日、久方ぶりに正統なオムリエ業務を行ないました。正直に申し上げて、ここのところあまり優秀なオムリエと言えないような日々を過ごしていたので、スッキリいたしました。

 布オムツを風呂場でざぶざぶ洗い、そのまま洗濯機に入れ「界面活性剤」がどうしたとかいう洗剤とラベンダーオイルを数滴たらす。洗い終わったら、我がアパートの屋上で、ぱんと布オムツを一回のばしてから縫い目がちょうどオムツ干しにかかるように干す。春のような暖かい日だったのでほどなく乾いたオムツを取り込み、2枚で1回分となるべくきちんとたたむ。

 これが正統なオムリエ業務です。洗剤はツマがあれこれ試した結果、アヤシゲな化学物質が入っていないことと、洗濯のアカが洗濯槽にたまらない(せっけん洗剤はたまって掃除がすごくメンドウ)ことから選びだしたもので、ラベンダーオイルもまたツマが見つけだしてきた効果抜群のにおい消しです。このコンビで、まずまず白くて匂わない布オムツが維持されております。ただ、両方ともなかなか強気な値段設定をしており、薄給の身のワタクシには費用の捻出がなかなかつらい、というのが玉に傷と言えましょう。

 折り目正しく外で干した布オムツは、アイロンをかけた位にぴしっとなって、実に畳みやすく、それはつまりムスメにも極めてはき心地のよいオムツになるということです。その前までのへなちょこな布オムツの束の横に並べると、今まで、いかにオムリエ業務をさぼってきたかが思い知らされます。

 チマタでは、子供のオムツ離れが早い、お尻が荒れにくい、経済的、などが布オムツを使うメリットとしてあげられています。多分どれもその通りだと思います。しかし、ワタクシどもに限って言えば、少なくとも(前述のように)決して経済的とは言いがたい状況です(紙オムツを使っているよりは安いけど)。それでも続けるのは、まあ、確かにムスメのことを思ってというのもあるとは思いますが、自分の気分がいいからってのが一番だと思います。それがなければ、続けられないと思います、多分。根性ないしね、ワタクシ。

 布オムツを使う話とはちょっと違いますが、ワタクシどものムスメはお尻がやや荒れやすく、オムツ取り替え時のお尻の洗い方をいろいろ工夫しておりました。最近これがおそらく一番だろう、と感じているのは、布オムツを1枚、あついお湯で湿らせ、それで拭く、というもの。ムスメは「あっちぃ」などといいながらも両足を自分で抱えて大股開きをするというあられもない格好でされるがままにツマに拭かれています。

 その様を見ていると、まことに気持ちよさげで、ワタクシは思わず「あーきもちいいいねえ、いいねえ」と声を出してしまいます。なんだか自分が大股開きでお尻を拭いてもらっているような気分にさえなります。多分実際にされたらものすごーく気持ちいいと思えます。こういう瞬間は、ムスメが気持ちよさそうでよかったな、と思います。

 そんなオムリエとしての小さなシアワセを噛み締めていると、ムスメに「ちっちばいばい」と言われ、使い終わった布オムツをいそいそと風呂場へ持って行くワタクシ。オムリエって基本的に「ぱしり」だと思います、多分。