オバラ・オムリエ・ショウスケさん。

 ツマのお腹が大きくなってきたこともあり、ワタクシがムスメとふたりで過ごすひととき、というものが増えて来ました。

 先日は、吉祥寺の駅で降りて、用を済ませたあと、急に思い立って動物園へ行ってみようと思い付きました。

 ムスメは、今まで2回、ワタクシの実家、名古屋にある動物園に行ったことがあります。しかしながら、いずれも肝心な時間帯に熟睡してしまい、その動物園の大目玉である「コアラ」は夢の中で通過してしまい、明らかに脇役の「カピバラ」とか「ペンギン」の前でだけ、目をぱっちりと開けるという、微妙に間の悪いひとときを過ごしております。 

 そんなムスメに、ね、動物園行ってみようか、ぞうさんいるよ、と問いかけると、それはどこにあるのだ、行ってみよう、と決然とした表情でワタクシに告げ、とうちゃんあっこ、と両手をこちらへ向け、ワタクシは、だっこをして「どうぶちえん」へと足を進めました。

 コアラとペンギンに格差をつけるのはオトナで、ムスメにとっては、動物園はすごく楽しいところ、らしく、細い道を歩くワタクシの腕の中で、どうぶちえんはまだか、あっちか、で、そこにはぞうさんはいるのか、アタシあるく、いややっぱしお姫様だっこしてくれ、と大騒ぎをし続け、そのうち疲れて(駅から割と歩くんです)、カンジンの動物園の正門についた瞬間に熟睡しちゃいました。

 ムスメの間の悪さに、父親、つまり自分からの遺伝をそこはかとなく感じつつ、ワタクシ手持ち無沙汰となって、向いの公園にある茶店に入って、ムスメを長椅子の上に寝かせ、ただ座っているわけにいかぬ、とメニューを詳細に検討し、ビールを注文しました。

 梅雨の晴れ間に、草葉はここぞとばかりに日光を浴び、むっとする青臭い息をそこここではいております。そして、その空気を吸いながら昼前の客もまばらなお茶屋アルクホールをたしなむワタクシ。ふと気付くと、前日がムスメの2歳の誕生日でした。

 そうか、もう2歳か、と思ってムスメを見ると、気持ちよさそうに大の字になって寝ている。それを見つつ、ワタクシ、お姉さんに、きつねうどんを頼んで、さらに本格的に腰を落ち着けました。

 こういった時間って、つい最近までなかったように思います。

 名古屋の動物園に行っていたころのムスメと、現在、スカイダイビングみたいな格好をして寝るムスメとの違いは、明らかです。以前に比べ、彼女の意志や意見は、ワタクシにほぼ正確に伝わるようになっている。つまり、コトバを覚え、歩き、見るということがスムーズに出来るようになってきている。

以前は、ワタクシはふたりきりになるときに、もっともっと緊張していました。彼女が泣き出したら、ワタクシには、その混乱をおさめる「おっぱい」を持っていず、いたずらにおろおろするしかなかったからです。それが今では、うどんのおつゆをツマミに酒飲む、なんてインチキ粋人を気取るようになったワタクシ。もちろん今だっておっぱいを持ってはいませんが、まあ、なんとかなるだろ、という余裕がムスメが大きくなった分だけ、出てきたように思います。

 同時に、どうやら、ふたりで時間を過ごす時間を重ねた分だけ、ワタクシも少しずぶとくなったようにも思います。

 ひとりっ子であるワタクシは「1対1」ってのが苦手で、いまだに必要以上に緊張するのですが、ムスメとは、気楽にやれるようになってきたわけで、そうなるまでに2年という月日がかかったことになります。そんな感慨に耽りながら、枝豆なんぞも食べていると、ぱちりとムスメが目をさましたので、トイレに行って、勘定を済ませ、復活した彼女の手を引き、武蔵野市の小さな動物園をタンノウしてきました。

 サービス精神旺盛なアナグマ、年とったゾウ、猿山のそこここに散らばるサル、などなどを見たムスメは、その後メリーゴウランドやゴーカートにも乗り、ラムネ菓子もたっぷり食べて、意気揚々と家に戻りました。

 ひとしきり「かあちゃん」に甘えてから、動物園に行ったの、で、どんな動物がいたの? というツマの質問に

「きりんちゃん」

 と鼻の穴を最大限におっぴろげ、実に満足げな顔でうなずくムスメ。

 えっと、ゾウもサルも見たしゴーカートも乗ったよね、と言うワタクシを尻目に、非常に思うところあったらしいムスメは、その後もきりんちゃんを連発し、首を伸ばす真似までしてから、ゴキゲンで眠りにつきました。

 その意志や意見はずいぶん読めるようになったと、ワタクシ先ほど大変ナマイキな文章を書いてしまいました。が、ムスメの思考、まだまだ奥深く、ワタクシ、修行をいかに重ねても、一生読み取りきれないだろうと思います。

 だって、キリンなんていなかったんだもの。

 ま、茶屋でのんだビールは麒麟でしたが。