山猫オムリエ。

 ムスメとセガレを連れて、吉祥寺のはずれにある動物園へ行きました。

 以前に来たのは、まだセガレがツマのお腹の中にいた頃でした。2歳になったばかりのムスメとふたりの道中で、コウフンのあまり正門に着く直前に熟睡してしまったムスメを抱えて、動物園前の茶屋で朝酒をたしなんだことを覚えております。

 そのムスメも3歳となり、セガレも外の世界で1年と少しをつつがなく過ごし、今回は、3人での道中と相成りました。

 花見客でごったがえす井の頭公園を抜けると、動物園の正門が現れます。

 切符を購入して中へ入って最初に目に入るのが、動物とふれあおう的なコーナー。ムスメは、係のおねいさんに手伝ってもらって、モルモットをへっぴり腰で抱きました。

 もぞもぞうごくモルモットをひざの上に載せ、ムスメは「このヒト、くすぐったいよ」とすごくフンガイしておりました。

 文句を言いつつもフレアイを堪能している様子に、父親的満足感を覚えつつ、まわりを見渡して目に入る動物は、カモにニワトリ、ちょっとがんばってヤギ。

 動物園でなくても見ることは出来るのでは、と疑念を抱くのはオトナであり、ムスメは、自ら知る動物がいるのにいたく感動して、ニワトリがこっこっと歩き回る様子を飽きることなく眺め、カモのコーナーの前で同年代の男子にしきりに話しかけ、カモ談義をしております。

 その様子を見つつ、セガレを抱っこして、動物を見せてやったところ、彼が最も興味を持ったのがヤマネコでした。

「ちょ」と彼が指さす先にいるヤマネコは、がんばってシカ、くらいのここの動物園のレパートリーのせいか、ヤマネコというよりネコに絵の具でヤマネコの模様を描いたもの、と言われた方が納得できるような様子で寝そべっておりました。が、セガレは、先日ツマの実家でふれあって来た半飼い猫「ニャン」を思い出したのか、お、と口をとんがらかして自称ヤマネコを凝視しておりました。

 老齢のゾウの前のベンチで昼ゴハンを食べさせながら空を見上げると、頭上に満開の桜が咲き誇っております。

 花見には今日をおいて他はない、という本日に、隣の桜咲き乱れる公園でなく、この動物園に来てヤギたちとたわむれる人々は、どこか、レイドバックしているように感じます。目玉たるゾウも、せいぜいふるふると鼻を揺らすくらいのアクションしかしないここは、コアラとかパンダはもちろん、ライオンやキリン的なハレ感は希薄です。日常生活の延長線上にある、適度な刺激。それが園内に満ち満ちており、その雰囲気を浴びて、オトナもコドモも、目を吊り上げることなく、お休みの日を過ごしているのです。

 ほどほどに動物を堪能したムスメとセガレが目をぎらりと光らせたのは、園の奥にある遊園地を見つけたときです。

 ふたつだけとワタクシに言われたムスメが吟味に吟味を重ねて選んだのは、チューリップ型のコーヒーカップと、ぐるぐるまわりながら高くなったり低くなったりするやつ(名前が判りません)。

 もの哀しさを醸し出すアニメソングをバックに動くアトラクションに、ムスメは大満足し、セガレも、姉ちゃんのセレクト最高っす、という顔できゃっきゃと笑います。その様子を見て、ジアイの表情で(多分)見つめるワタクシ。ヒトが見れば、あまりにも『クレイマー・クレイマー(離婚にまつわる、でもハートウォーミングな映画です)』的な光景ではあるのですが、ツマは家で今頃ひとりの昼餐にシタツヅミをうっているはずなのではあります。

 春は気まぐれ。急に曇ってきた空を見て、さあ、そろそろ帰ろうかと門を出て、公園の中へと再び入っていくワタクシども。

 園内は、午前中に来たときからさらに人が増え、そこここで宴を繰り広げております。

 前に動物園に来たときは、ずっと「だっこ」だったムスメが、今日は、そんな人ごみの中をどしどしと歩き続け、ベビーカーで昼寝を始めたセガレを見て、ひざかけの下が地面にすれているよ、とワタクシに報告までするようになっております。

 ゆるやかにではありますが、でも一歩ずつ大きくなりつつあるムスメと、その後を追うセガレ。

 彼らの歩みを、せきたてられることなく、なぞることができるような、そんなゆるやかな時間のながれる小さな動物園での半日でした。

 まあ、園内をずんずん歩くムスメの後追いつつ、宴で供されているアルクホールを自分も少しいただきたいものだ、と思わなくもなかったのではありましたが。